農業から食卓までの安全管理

鶏肉による食中毒の実態と発生件数の推移

 鶏肉による食中毒ではカンピロバクターという細菌によるものが最も多く、特にその中でカンピロバクター・ジェジュニが主体です。一方、牛も本菌を多く保有しており、牛肉(内蔵)による食中毒も見られます。豚ではカンピロバクター・ジェジュニよりカンピロバクター・コリを多く保有しています。カンピロバクター食中毒は感染型食中毒に分類され、ノロウイルス食中毒と並んで事件数は、最も多く見られています。

わが国における微生物性食中毒発生件数の推移
わが国における微生物性食中毒発生件数の推移

 カンピロバクター・ジェジュニは食品中ではほとんど増殖せず、鶏肉に汚染しても大気中では増殖することはなく、生残性も非常に低く、死滅しやすい菌です。しかし、食中毒は最も多く発生しています。これらの多くは患者1人の散髪事例であり、また幼児・子供の腸炎・下痢症の原因菌として高率に検出されます。一方、本菌に感染し治療後3~4週間経って、手の痺れ、麻痺などの症状を示すギラン・バレー症候群を発症することがあります。
 カンピロバクター食中毒は食肉関連食品で多く発生していますが、しかし何を食べて発症したか不明の事例も多いです。
カンピロバクター食中毒の原因食品別事件数
カンピロバクター食中毒の原因食品別事件数

 本事件は原因食品を喫食してから発症まで3~5日と比較的長く、そのため原因食品から本菌を検出することが難しく、原因食品不明となります。
 原因食品が判明された事例では、鶏肉関連食品(鶏レバー刺し、鶏刺し、たたき、ユッケなどの生食)、未加熱料理品によるものが多く、このほか牛レバー刺しによる事例も多く見られます。牛レバーの組織内にカンピロバクターが汚染しており、衛生的取り扱いなどの衛生管理を十分に行なっても防ぐことができません。

鶏肉の生産から加工、流通、消費の流れ

 下の図は食鳥生産から鶏肉消費までの工程です。

食鳥肉の生産から消費までの工程
食鳥肉の生産から消費までの工程

 農場の生産段階では、若鶏として40~43日前後、成鶏として53~56日間飼育した後、処理場へ搬入し、と殺処理されています。さらに大規模食鳥処理場(年間30万羽以上処理する施設)では、部分肉加工場(カット工場)を併設しており、もも肉、むね肉、手羽、手羽先など部分肉を採取し出荷しています。
 鶏処理と牛、豚の処理方法には大きな違いがあり、牛、豚はと殺後剥皮されますが、鶏は脱羽するだけで、皮膚も食用に供されています。鶏の背中の部分は羽毛に覆われていますが、胸、腹部では羽毛は少なく直接糞や土に触れ、皮膚の微生物汚染も多く認められます。
 また、食鳥処理を行う場合、湯の中に浸漬しその後脱羽、さらに処理工程の最後に、と体を冷却するため0~4℃の冷却水に30~40分浸漬されます。これらの温湯、冷水中へ浸漬することにより鶏肉は水分を吸収し、これらを流通工程においてドリップ(浸出液)を浸出しやすく、微生物もこのドリップ中では増殖しやすいのです。

食鳥処理場における安全確保対策の「三本柱」

 食鳥処理場では、食鳥検査法に準じて衛生検査が行われています。処理場への搬入段階の生体検査から脱羽後の検査、内蔵摘出後の検査が行われています。基本的には、食鳥検査法では病気に罹患した食鳥は喫食しないことであり、異常な食鳥、疾病に罹患した食鳥は排除すること「疾病・異常肉の排除」です。このほか、食鳥肉への微生物汚染防止および残留抗生物質などの排除など「微生物制御」および「残留有害物質排除」も重要であり、これらの3つが食鳥検査における重要管理点です。
 「疾病・異常肉の排除」は、人獣共通感染症や家畜伝染病などの疾病に感染している鶏を排除することです。これら検査は専門獣医師により行われており、これについては社会的にもほとんど問題は起こっていません。一方、今日大きな問題としては、「微生物制御」の課題です。食中毒起因菌などの病原微生物の食鳥肉への汚染防止については、食鳥処理場の作業者たちにより行われるものであり、獣医師はこれらについて指導及び監視を行なっています。「残留有害物質排除」も食鳥肉生産者たちが行なうことであり、残留抗生物質などについては獣医師による検査も行われています。
 異常、食鳥検査の「三本柱」の中で今日最も重要なことは、食鳥処理における食鳥肉への病原微生物制御、食中毒起因菌の汚染防止です。

食鳥生産農場におけるカンピロバクター対策

 生産農場では鶏がカンピロバクターを保菌していても、疾病を起こすこともなく、増体率は変わらず生産性も低下することはありません。それゆえ、多くの農場ではカンピロバクター汚染の低滅には積極的に取り組まれないのが現状です。しかしカンピロバクターを保菌しない農場が見られるということは、飼育環境や飼育管理を十分に行うことにより、本菌を保有しない食鳥生産が可能であると思われます。
 一方、食鳥処理場では食鳥肉を生産し販売する場合、カンピロバクターの汚染は消費者に対し大きな問題となっています。今日、生産農場と食鳥処理場の一貫経営が行われている事業(施設)も多く、農場と処理場はもっと連携してカンピロバクターの汚染撲滅を図ることが必要です。
 生産農場では入雛から出荷まで大体54~56日間要しており、また生産農場では、オールイン・オールアウト方式(飼育開始時に鶏舎に全部の雛を入れ、出荷時は鶏舎から全ての鶏を搬出する方式)を行なっています。さらに出荷後鶏舎内を消毒し、10日~2週間空舎期間を設けて、次の健康な雛を入れ、健康維持し病原体の排除を十分に行なって、食鳥生産し処理場に搬入することが大切です。以上のように、安全で衛生的な食鳥肉を消費者に提供するためには、生産農場と処理場が連携し、さらに流通業界などが協力して食中毒などの事件が発生しないようにすることが重要です。

財団法人 日本食肉消費総合センター
「鶏肉の実力~健康な生活を支える鶏肉の栄養と安全安心~」
農場から食卓までの安全管理

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