2010年の時点での、世界中の鶏肉(ブロイラー)生産は、7000万トン(国際的な鶏肉の重量基準R-T-C=放血し頭・脚・内蔵を除いた中抜き丸鶏の重量)、羽数でいうと約500億羽のブロイラーが生産されています。これはほとんど、世界各国の専門的なブロイラー企業が生産しています。
肉用鶏の主な種類について、字面だけではなかなかわかりにくいブロイラー、銘柄鶏、地鶏。ブロイラーとは白羽食のメス系とオス系の交配でできたものです。銘柄鶏というのも、大部分は品種的にはブロイラーと同じです。餌や飼い方、薬品使用の有無、飼育期間などの違いで基本的には変わりません。
地鶏には2種類あって、一つ目は、地の鶏といい昔から日本にいる軍鶏など在来鶏の雄をブロイラーのメス系統にかけたものです。発育が早いため80日くらいで3kgくらいになって出荷できます。
もう一つ目は、地鶏のオスと昔の兼用種(例:茶色のロードアイランドレッドをかけたもの)。ロードアイランドレッドは肉用に改良されたものではありませんが、成鶏になった時に肉がたくさん採れ、卵もよく産みます。しかし、発育はかなり遅く90日以上飼わなければなりません。比内鶏のように6~8ヶ月飼わなければいけない種類もいます。
他に、褐色コーニッシュをロードアイランドレッドに交配した赤羽色銘柄鶏という鶏がいます。もともとコーニッシュは1950年代までは褐色でした。褐色の鶏はメラニン色素があり、と体にフデゲという発育途中のメラニン色素の詰まった羽軸が残って汚く、白羽色鶏でないといけないことから、褐色コーニッシュにもドミナント・ホワイトの遺伝子を導入して白くし、ブロイラーは1960年代に全部白羽色になりました。しかし、1940年~50年第のブロイラーは、まだ褐色コーニッシュを使っていたため、ロードアイランドレッドを交配したものを、地鶏の中でも特に赤鶏といって宣伝しています。
褐色コーニッシュは1950年代からあまり改良されず、ただ保存していただけで、発育が今の白羽色鶏に比べるとかなり遅いです。現在の日本でのブロイラーの平均的な出荷時生体重で比べると。白羽色専用種は6.5週齢、赤羽色ブロイラーでは10週齢での出荷になります。
日本のブロイラー産業は、1960年代に始まりました。あらゆる産業に盛衰のライフサイクルがあるように、ブロイラー産業にもちょうど10年ごとに導入期、成長期、成熟期、衰退期というサイクルが顕著に表れます。1950~1960年代、新しい鶏種、大群飼育方式、配合飼料・薬品などの開発によって安価な鶏肉の大量生産に成功して大発展を遂げたブロイラー産業ですが、1990年代以降は、生産羽数で見ると衰退期といえます。半世紀を経て、高級化、多様化、個性化を求め、健康と安全を志向する消費者に対応して、ブロイラーから銘柄鶏、地鶏への変換を進めた結果、リバウンド現象が起こったと見ることができます。
各種鶏肉の卸売価格
平成18年の東京卸売会社6社の平均卸売価格です。1kg当たりブロイラーがむね肉204円、もも肉541円、銘柄鶏がそれぞれ488円、857円、地鶏が1,833円、2,162円となっています。もちろんコストがこんなに違うわけではありません。地鶏は高コストですが、銘柄鶏は餌などが多少違う程度ですから、これは上手に販売しています。直近のデータがないので断言はできませんが、今はこんなに高くは売れていないと思います。
また、高価格の地鶏、銘柄鶏のむね肉が全部売れればいいのですが、1~2割しか売れないとなると、あとは全部ブロイラーと同じ204円で売らなければならない。そうなると、コストの高い銘柄鶏・地鶏を作っている人は全く儲からない赤字になってしまいます。外国の赤ラベル鶏は、半分は丸鶏で売ってしまうため問題はありません。
日本国内のブロイラー産業は、非常に生産基盤が弱体化していると思います。
まず、鶏肉に関しては、老朽化が進んでいてます。全国に約2700戸のブロイラー専門の生産者がいて、年間約6億羽を生産していますが、82%くらいは鶏舎がもう20年以上経過しています。ただこれを調査したのが平成17年度ですから、現在では既に25年以上経過している計算になります。新しい鶏舎に更新しようと思ってもお金がない、あるいはそれほど儲からないので更新できないのが現状です。
食鳥処理場の老朽化も進んでいます。ゆ洋設備の処理加工設備は、償却も7~10年、短いと5年くらいですが、76%が10年以上です。古い機械を直しながら使っているわけです。鶏舎や処理場を新築しようとすると、鶏舎の場合は土地代を除いて、内部設備と建屋だけで坪10万円くらいになります。今は円高ですからアメリカでは2万円くらいでできるのではないでしょうか。ブラジルではもっと安く出来ます。
それから食鳥処理場の建設費が高い。日本の処理場は非常に規模が小さくて、大羽数を処理できるような処理場はありません。世界のブロイラー処理場は、1日20万羽を処理するのが標準です。日本は、一番大きい処理場でも1日2万数千羽しか処理していない。それだけ鶏が集まらないのです。
それでいて、処理場を作ろうとすると建築費が非常に高い。平成18年に、ある処理機械メーカーに、一番理想的な1日6万6000羽処理できる処理場の新築費用を試算させたところ66億円です。土地代、給排水などの設備を入れると100億円くらいかかります。おいそれとはとてもできない数字です。現在は年間6億3380万羽を全国の165処理場で1処理場1日平均1.4万羽しか処理していません。
それから飼料コストが高い。アメリカの2倍、初生ひなコストも3倍かかる。こういう非常に困難な脆弱な生産状態、これが日本の鶏肉の生産基盤の現状です。
財団法人 日本食肉消費総合センター
「鶏肉の実力~健康な生活を支える鶏肉の栄養と安全安心~」
我国の鶏肉生産の現状と課題